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研究者×企業インタビュー「おいしい舞台裏」素材編

春まき小麦「はるきらり」|製パン適性に優れた期待の星|北海道立総合研究機構 北見農業試験場 足利奈奈さん,,

Outline作りやすく、収量の高い品種が目標

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左の「はるきらり」のほうが、右の「春よ恋」に比べて雨風に当たっても倒れにくく、収量も同等か「はるきらり」のほうがやや多い

「春まき小麦は気象によって、秋まき小麦より収量などが不安定になりやすいんです」と話す、北見農業試験場の足利奈奈さん。「秋まき小麦は越冬も含めて長い生育期間を経ますが、春まき小麦は春にまいて夏の終わりには収穫という非常に短い期間なので、気象の変化に左右されることが多いんです」。一般には、タンパク含量が低い秋まき小麦は日本麺(うどん)用、含量が高い春まき小麦はパン用に使われますが、日本麺用は大体6割が国産小麦なのに対してパン用はわずか1%。農家の作付けへの意欲を喚起する上でも、作りやすく、安定的に収量が高い品種の育成がめざされました。

作りやすくするためには、「雨風に当たっても倒れにくいこと」「雨によって穂の状態で芽が出てしまう穂発芽が少ないこと」「赤かび病に強いこと」などが挙げられます。麦自体が倒れると収量が少なくなり、穂発芽すると種の中の酵素であるアミラーゼが働いてデンプンを分解し品質の劣化につながります。さらに、赤かび病菌が作り出すかび毒DON(デオキシニバレノール)が暫定基準値の1.1ppmを超えた生産物は流通できない、という現実もあります。平成19(2007)年に優良品種となった「はるきらり」は、これらの特性を改良しており、春まき小麦の9割を占める基幹品種「春よ恋」より倒れにくいなど、農家からも喜ばれています。

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穂発芽発生程度の比較(平成17年 中央農試)

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赤かび病発生条件における かび毒(DON)の汚染程度
(赤かび病防除回数を減らした条件、または無防除の条件)

Technology安定した生産につながる、初冬まき栽培も可能

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「はるきらり」の系譜

「はるきらり」の親は3種。カナダ産のパン用優良銘柄「1CW」の構成品種であった「Katepwa」からはパンの品質を、中央農業試験場で作った「C9304」からは倒れにくいなどの草姿(立ち姿)のよさ、北見農業試験場で育成した「春のあけぼの」からは穂発芽への強さなどが、受け継がれています。交配したのは平成6(1994)年で、品種になったのが平成19(2007)年。「育成の後半になると品種になる可能性が高いので、時を待たずに種子の増殖をかけていきます」と足利さん。人気がありながら、病気や穂発芽にきわめて弱い「ハルユタカ」は収量が少ないことから撤退する農家もあり、これへの置き換えと同時に、一部「春よ恋」に代えた作付けでも「はるきらり」は期待されています。

製パン適性に優れるとされる「はるきらり」ながら、パンのふっくらした仕上がりなどに関わるタンパク質の含有率がやや低いため、窒素肥料を多めにするなどの栽培法でカバー。「はるきらり」は雪が降る前に播種する、初冬まき栽培も可能ですが、こちらでも開花期以降に追肥を行うなど、タンパク含量を高める処方が若干必要になります。初冬まき栽培は、雪が解けるとすぐに芽を出すため生育が早く、雨などの影響を回避でき、生産の安定化に結びつくというメリットがあり、地域によっては、初冬まき栽培を主体にしているところもあるそうです。

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草姿、穂、粒で、いずれも左から「はるきらり」「ハルユタカ」「春よ恋」

Prospect「はるきらり」を親に、さらに品種改良中

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左から「はるきらり」「春よ恋」「ハルユタカ」で焼いたパン。窒素肥料を多くするなどの工夫でタンパク含量を高めた「はるきらり」のパンは、ふっくらと膨らみやすく、おいしい仕上がり

地産地消や食の安全性などの背景もあり、道産小麦を使いたいという声は多いといいます。パン用の品種として、秋まき小麦でも北海道農業研究センターが育成したタンパク含量の高い「キタノカオリ」や「ゆめちから」が出てきています。今後の目標について足利さんは「『はるきらり』は春まき小麦としては収量が高いのですが、それをもっと上げること、そして倒れない・穂発芽しにくい・赤かび病に強いという能力も上げていくことですね」と話します。タンパク質含有率の高い品種と交配するなど、「はるきらり」を親とした品種改良もどんどん進んでいます。すでに特性検定試験も行い、品種の一歩手前まで来ているのが「はるきらり」を父とする「北見春71号」と、母とする「北見春72号」。試験の成績がよければ3年後くらいには品種になる可能性があるそうです。

「湿潤な気候など、小麦にとっては決して望ましい環境とはいえない日本ですが、それでも作れるようにと昔から品種改良が一生懸命行われてきました」と足利さん。高齢化が進む農家にあって機械で種まきも収穫もある程度できる小麦は、非常に重要な作物だともいいます。一方でパンや中華麺に適する硬質小麦の作付け拡大は、輸入小麦への依存度を下げることが狙い。「中華麺やパン用の硬質小麦は輸入に頼る率が高いため、その自給率を上げることを国も北海道も目標として掲げ、助成金などの追い風も吹いています」

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