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研究者×企業インタビュー「おいしい舞台裏」加工編

魚醤油「魚々紫」|発酵技術で、サケの廃棄物から新たな調味料を開発|北海道立総合研究機構 食品加工研究センター 吉川修司さん,株式会社マルデン 代表取締役社長 傳法貴司さん,

Outline魚臭さのない、うま味に富んだ魚醤油を

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日高で水揚げされるサケ

水産加工ではどうしても副産物(廃棄物)が出ます。例えばそれは魚の皮、ヒレ、内臓など。食品加工研究センターではこれら北海道の豊かな水産資源の有効活用として、平成7(1995)年から魚を原料とした醤油の研究開発を始めていました。当初は内臓などが持つ酵素によって自らうまみを生み出す力(自己消化)に着目して調味料化する試験を行っていましたが、かねてからの製法では魚のにおいがきつくなってしまいます。そこで、人々に広く受け入れられるようにするため「第1目的として、発酵技術を使ってうま味はそのままに香りを改質していくこと。第2目的として、うま味をアップし、その他できる限りの品質改良をしようと考えていました」と同センターの吉川修司さんは話します。発酵にあたっては、大豆から造る醤油と同様に麹を使用。塩だけの“魚醤“ならぬ麹も使う “魚醤油”“です。

吉川さんが予備試験を始めたのは平成13(2001)年。同じ頃、日高でサケの定置網漁や加工・販売などを行うマルデンでは、一日に何十tというサケを処理する際に出る大量の新鮮な内臓を産業廃棄物として有料で処理することに、もったいなさを感じ続けていました。「醤油にできないかと思っていたところ、食加研での研究を知り、相談することにしました」と、マルデンの傳法貴司さん。吉川さんの研究では、後の特許製法(※1)につながる技術がほぼできていたこともあり、それを応用しながら「魚臭くなく食べやすい、うま味に富んだ魚醤油を造ろう」と話は進展。大量に製品化して販売することを前提に、実際にある程度の量を製造できるよう共同研究へと入っていきました。

※1食品加工研究センターでは魚醤油の研究から、耐塩性酵母や乳酸菌による発酵技術の特許を取得済みです

Material原料の鮮度が、くせのない味を生む

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新鮮なサケを素早く処理。ここで取り除かれる鮮度の高いプリプリの内臓や残渣を「魚々紫」に使う

「魚々紫」の主原料はサケの内臓。それを塩漬けにした後、麹を混ぜ、発酵させて魚醤油となります。吉川さんは「サケは魚醤油を一番造りやすい素材」と話します。「味にくせがなく、後味に若干甘味があって、どんな食材や料理にも合わせられ、口当たりのよさが特徴」ともいいますが、そこで何よりのポイントとなるのが原料の新鮮さです。「鮮度の悪い原料を使うと香りが悪く、においがきつくなる」と傳法さん。マルデンでは、浜から揚がったばかりのとびきり新鮮なサケから取り除いた内臓を使用しています。

うま味成分がいろいろと含まれた魚醤油。大豆醤油はグルタミン酸が主体なのに対し、「魚々紫」はほかにアスパラギン酸、アラニン、グリシンなどさまざまなアミノ酸の量が通常の醤油より豊富で、複雑な組成。ナンプラーなどの輸入魚醤に比べて遊離アミノ酸が多いというのも特徴で、それだけうま味があることを物語っています。よりくせがなく、うま味の豊富な魚醤油に仕上がっている、それが「魚々紫」なのです。

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「魚々紫」は輸入魚醤に比べて遊離アミノ酸が多く、醤油よりもさまざまなアミノ酸を含む複雑な組成になっている

Technology挑戦と失敗から、寒冷地・北海道での大量生産の術を確立

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試験段階のサンプル。左から、塩漬け中、発酵3週間経過、完成品

気温が低い寒冷地の北海道では、仕込んだものをそのまま放っておいても発酵がなかなか進みません。そこで考え出したのが、使っていない冷凍庫など断熱材を施してある設備の活用です。その中を暖房すれば、燃料代も抑えて効率よく温めることができます。しかも麹を使えば魚臭さが減らせるうえに、熟成も早く進みます。吉川さんに教えられた製法で、最初は100kgほどの仕込みからスタート。と、そのはずでしたが、実はマルデンではこれとは別に600kgを仕込んでいました。計約700 kgの仕込み。結果は良好で、おいしい魚醤油ができたことから、傳法さんは「次は20t」と大量生産への挑戦を決めました。ところが、ここでトラブル発生。大量に仕込み始めたころ「1tを腐らせた!」と吉川さんに連絡が入ったのです。原料はまだ20t残っています。それも腐らせるわけにはいかないので、連絡を受けた吉川さんも必死になって当時の設備で20tを処理する方法を考えたといいます。


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マルデンの設備(40℃設定)で熟成中。このあと搾って瓶詰め等を行い、出荷

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塩漬けした内臓と他のサケの残渣をまんべんなく撹拌する機械

マルデンの設備で一度に扱える量はおおむね2t。必要日数と処理量を割り出して、原料を順に仕込んで40℃の保温庫内で温め、どろどろに溶けたところで外に出すという手順を繰り返して全ての原料を処理し、腐敗の危険性を抑えました。その後に保温庫内で追加熟成を行い、味のチェックをしながら、さらに室温での熟成を行いました。また、1tが腐った理由も解明されました。ミンチにした内臓を塩漬けした後に他のサケの加工で出た残渣(ミンチ)を加えるのですが、手動で混ぜていたために撹拌し切れず、残った固まりが腐敗していたのです。そのため、この点は機械でまんべんなく撹拌するよう改善。最終的には20tすべてを腐らせることなく魚醤油にできたといいます。さらに新タイプのろ過装置も導入して、「機械のテストを行いつつ、試行錯誤の末、魚々紫が完成しました」と吉川さん。「この事故から、寒い北海道においても限られた施設で大量生産できる術が確立されました。『災い転じて福となす』です」

Market単品売りに加えて、自社加工製品への活用も

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「魚々紫」のネーミングは社内コンペで募集。ロゴも社員による書。評判がよく、名前も売れてきている

「失敗してもいいから挑戦してみようという気持ちで、仕込み方、搾り方など食加研の技術に我々の工夫を加えながら取り組んできました」と傳法さん。時には、前述のように腐らせてしまったり、ろ過中に機械の圧力が高まり中身が吹き出して傳法さん自身が頭から魚醤油をかぶってしまったりと、数々の失敗もありましたが、開発開始から3年目で製品化に至り、平成16(2004)年に「魚々紫」が発売されました。道外も含めて、スーパーマーケットやデパートの食品売り場などで販売。料理研究家に調味料として使ってもらう料理提案も活用しながら広報。「消費者の方から、ファンだといわれることがあります」と嬉しそうな傳法さん。気に入った人はリビーターとなり、大豆アレルギーのある人に安心できる醤油としても徐々に売れてきています。

マルデンでは「魚々紫」を自社の加工食品へ活用することも想定していました。イクラの醤油漬けやカレー、混ぜご飯など、ほとんどの自社製品に調味料として使用。魚醤油の単品売りとあわせて、いかに自社製品にフィードバックするか。吉川さんも「これが魚醤油として一番いいパターン」といいます。傳法さんは最後にこう話してくれました。「魚々紫を造って本当によかった。今や“マルデンの味”には、これがないとできない商品がたくさんありますから」

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いろいろな料理に調味料として活躍。ほかに焼きそば、チャーハン、ステーキ、焼き肉など、さまざまに活用できる

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