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研究者×企業インタビュー「おいしい舞台裏」加工編

高鮮度保持商品「函館活〆するめいか」|活魚に近い「新鮮さ」を保ち、流通させる|工業技術センター 研究開発部 主任研究員 吉岡武也さん,株式会社 古清商店 取締役 鮮魚部部長 宮内信夫さん,

Outline単価の底支えをしたい、という思いから

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スルメイカは九州・山陰で生まれたのち餌を求めて北上し、北海道で丸々と太った状態に。その後、産卵のためにまた南下するというサイクルを毎年繰り返す。函館がスルメイカの一大産地である理由もその回遊にある

30数艘のイカ釣り船から水揚げされたイカは、流通の面から大きく3つに分けられます。まず「活イカ」。水槽を積んだ活魚トラックで飲食店に運ばれる高級品です。次に「生簀イカ」。朝、港に帰った船から揚げた時点で死に至り、生鮮品としてスーパーの刺身食材などになります。続いて「発泡・下氷(したごおり)」。これは水揚げされた船上ですでに氷を底に詰めた発泡スチロールに入れられているもので、加工用やスーパーの加熱用に回ります。

価格は漁獲量にもよりますが、発泡・下氷のイカに比べて生簀イカが2~3倍とすれば、活イカはさらにその2倍とかなりの開きがあります。しかも活イカと生簀イカは合わせても、流通するのはイカ全量の数%。「生簀イカとして揚がってもすべてが上場してセリにかけられるのではなく、余りが出る。それらは加工業者に回りますが、それでもさらに余ったものは発泡・下氷に集約されます」と古清商店の宮内信夫さん。となれば価格も半値以下。「単価を底支えして漁師さんに少しでも還元したい。そのためには『鮮度』という付加価値が必要でした」(宮内さん)。

工業技術センターのほか、北海道大学や他企業、漁業者も加わって、生きたイカに近い新鮮さをどうしたら保てるか研究が進められました。そして2年後の平成17(2005)年8月、函館で味わえるイカ刺しと遜色ない品質の活締めスルメイカが、築地市場に試験的ながら出荷されたのです。

Materialいい鮮度を保てる限界は死後24時間

写真:イカ透明度比較

鮮度の証でもある左のような透明度は、死後24時間で失われる

「イカは非常に鮮度低下が速く、また生簀に入れて長生きさせようとしても飼育や蓄養が技術的に難しいのです」と話すのは、工業技術センターの吉岡武也さん。大消費地の札幌や東京に届けるにしても、「狭い所にたくさん押し込むとイカ同士がお互いに絡まって死んでしまい、輸送コストの高上がりにもつながる」と言います。

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保存中の硬さの変化。12時間で最低ラインに達したことがわかる

一般に魚は死んだ直後よりも24時間ほどたったほうが、身が引き締まります。ではイカはどうか。0℃で保管して変化を測定したところ、身の透明度は24時間で消え、歯ごたえの指標となる硬さは12時間で最低ラインに到達しました。吉岡さん曰く「われわれが狙う鮮度とは腐敗を防止することではなく、活魚に近い品質を保つこと」。新鮮さは実験でもわかったように、従来のやり方では保ててもせいぜい12時間から24時間まで。この時間帯をいかに延ばすかが研究の主題になったことは言うまでもありません。

Technology生物としては息絶えても、組織として身が生きている

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保管によるイカ肉のK 値とATP含量の変化。青丸がATPで死後24時間までなら残っており、組織自体は生きていることがわかる

生きている時に近い新鮮な状態をどう保つか。鮮度保持の研究は以前から行われていましたが、平成15(2003)年に都市エリア産学官連携促進事業が採択され、体制が整ってより進展。その中で着目されたのがATP(アデノシン三リン酸)でした。

ATPは生きるものすべてが持つ成分。その有無で、生命体としてのエネルギーを保持しているかどうかがわかるといいます。「イカの場合は死後24時間まではATPがありますから、その間は生物としては死んでいても体の組織が生きている状態。これは硬さや透明度が12時間、24時間で低下することとも呼応しており、鮮度を保つためにはATPを残す方法をみいだす必要があることがわかったのです」(吉岡さん)。

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活締め後、ロケット型の酸素パックに1尾ずつ入れられるスルメイカ

研究を重ねた結果導きだされたのが、イカへの負担が少ない活締めにし、酸素を封入したパックに入れ、従来の0℃よりも少し高い5℃で保管することでした。これによりイカのATP は24時間を超え48時間たってもなくならず、鮮度が高いレベルで保たれることがわかったのです。くわえて、色・ツヤに有効な海水漬けも採用。また、実生産の現場となる工場で時間をできるだけかけずに処理できる活締めとして、頭と胴をつなぐ神経を切断する方法も考案。あばれて赤黒く変色したイカは、神経を切られると瞬時におとなしくなり、白く透けてくるといいます。

Market築地市場をはじめ、関東を中心に高い評価を得る

写真:製品

透き通った身がコリコリとした歯ごたえを予感させるイカ刺し。「函館活〆するめいか」は48時間たっても活イカに近い品質を保つ 写真提供/有限会社 マルナマ食品

平成17(2005)年8月、活締めスルメイカのサンプルが築地市場に届きました。「評価は非常に高いもので、『身が生きている』と言われました。48時間たってもイカ刺しの歯ごたえはコリコリ。実際、耳も動くし吸盤もキュッとくっつき、表皮を触ると発色するなど、新鮮な条件がそろっていました」と宮内さん。鮮度保持の時間を長くできたことから陸送が可能になり、流通コストが抑えられたことも高評の要因でした。そして、この築地での評判をきっかけに商品化の話が一挙に加速しました。

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鮮度の高さは築地市場の目利きをもうならせた

黙っていれば発泡・下氷に回り、安値で売られるしか道のなかった生簀イカは、高鮮度保持という付加価値により「函館活〆するめいか」として数倍の価格で市場へ。原料の生簀イカを供給する漁業者ももちろん、利益還元を受けることとなりました。現在出荷しているのは築地をはじめとする関東圏が主。卸売や仲卸業者だけでなく、品質と価値を認めたお寿司屋さんや料理店などからも引き合いがあるといいます。

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